大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)4372号 判決

原告

野沢清

原告

中村彦四郎

代理人

川又武男

被告

真和タクシー株式会社

代理人

風間武雄

碓井清

被告

志村興業株式会社

代理人

小林澄男

苅部省二

植田義捷

主文

被告らは各自原告野沢清に対し金三三〇、〇〇〇円および内金三〇〇、〇〇〇円に対する昭和四三年五月一一日以降、残金三〇、〇〇〇円に対する昭和四四年二月九日以降各払い済に至るまで年五分の金員、原告中村彦四郎に対し金二〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年五月一一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを七分し、その六を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

一、被告らは各自原告野沢清に対し、二、三〇五、三二六円八〇銭および内金一、二〇〇、〇〇〇円に対する昭和四三年五月一一日より、残金一、一〇五、三二六円八〇銭に対する昭和四四年二月九日より完済にいたるまで年五分の割合による金員、原告中村彦四郎に対し二〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四三年五月一一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。との判決および仮執行の宣言を求める。

第二  請求の趣旨に対する各被告の答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。との判決を求める。

第三  請求の原因

一、(事故の発生)

原告らは、次の交通事故によって傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四二年四月五日午前一時一〇分頃

(二)  発生地 東京都北区岩渕町二丁目二四番先交差点

(三)  加害車 普通乗用車(練馬五き八七九三号、以下甲車という)

運転者 訴外所崎和洋(以下所崎という)

被害者 原告ら(乗客として乗車中)

(四)  加害車 普通乗用車(練馬五き九八五三号以下乙車という)

運転者 訴外岩間三男(以下岩間という)

(五)  態様 甲車は赤羽駅東方岩渕中学校前通りを北進し、すずらん通りの交差点に差掛つたところ、右通りを東方に疾走して来た乙車に横突された。

(六)  被害者原告らの傷害の部位程度は、次のとおりである。原告野沢―左胸部骨折(左胸部肋骨三本、左胸背部肋骨二本)、頭部脛部打撲、左踵打撲。同日赤羽中央病院に入院し、同年五月一一日退院、その後同年一一月二七日まで通院。

原告中村―頭部打撲症。

(七)  また、その後遺症は次のとおりである。

原告野沢―頭痛、胸部痛、日常まだ恐怖的観念がある。

原告中村―頭脛肩に軽痛、気力減少。

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

被告真和タクシー株式会社は甲車を所有し、被告志村興業株式会社は、乙車を所有し、それぞれ自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

三、(損害)

(一)  慰藉料

原告らの本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み、原告野沢に対し一二〇万円、原告中村に対し二〇万円が相当である。

(二)  原告野沢は訴外富士油化工業株式会社の社員であり、本件事故により昭和四二年四月五日より同年五月一一日まで入院し、その後通院したので、同年四月五日より同年一二月までの間、右会社に出勤できず、また出勤するも不完全執務なるに拘らず月給八六、八〇〇円を右会社は支払わざるを得ず、右期間に七六九、六二六円八〇銭の支払をなし、なお、同会社は年末手当(昭和四二年四月より一二月分一八五、七〇〇円)の支払をなさざるを得ず、同会社は合計九五五、三二六円八〇銭の損害を受けた。右は被告らが賠償する義務がある。原告野沢は昭和四四年二月三日右会社より右損害賠償請求権の譲渡を受け、その通知は同月五日各被告に到達された。

(三)  弁護士費用

以上により、原告野沢は二、一五五、三二六円八〇銭、原告中村は二〇〇、〇〇〇円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、原告野沢は一五〇、〇〇〇円を、手数料として支払つた。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告野沢は二、三〇五、三二六円八〇銭および内金一、二〇〇、〇〇〇に対する昭和四三年五月一一日より、残金一、一〇五、三二六円八〇銭に対する昭和四四年二月九日より完済にいたるまで年五分の割合による金員、原告中村は金二〇〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年五月一一日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四  被告真和タクシー株式会社の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)中原告野沢が昭和四二年五月一一日退院したことは認めるがその余は知らない。(七)は不知。

第二項中被告真和タクシー株式会社が甲車の運行供用者であることは認める。

第三項(一)不知。(二)のうち債権譲渡の通知を受けたことは認めるが、その余は不知。(三)不知。

二、(抗弁)

訴外富士油化工業株式会社は、自ら裁判上の請求をなす意思が全くないに拘らず、本件訴訟に便乗せんとして、何らの対価もなく請求権を原告野沢に譲渡したもので、訴訟行為をなさしめることを主たる目的としてなされた信託であること明らかである。従つて、右譲渡は信託法一一条により無効である。

第五  被告志村興業株式会社の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)傷害の事実は認めるが、部位程度は不知。(七)は不知。

第二項のうち乙車を被告志村興業が自己のため運行の用に供していたことは認める。

第三項(一)不知(二)のうち債権譲渡の通知をうけたことは認め、その余は不知。(三)は不知。

(抗弁)

富士油化工業株式会社の原告野沢に対する債権譲渡は信託法一一条により無効である。

第六  抗弁に対する原告の認否

信託法第一一条により無効であるとする主張は否認。

第七  証拠関係は本訴記録中証拠目録記載のとおり。

理由

一請求原因第一項(一)ないし(五)は当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、原告野沢は本件事故により胸部挫傷(肋骨々折)、脛部挫傷の傷害をうけ昭和四二年四月五日より同年五月一一日まで赤羽中央病院に入院治療をうけ、同月一二日から同年一一月二七日までの間(実日数一七日)同病院に通院し治療をうけ、同年一一月二七日治癒と診断をうけていること、原告中村は本件事故により頭部打撲傷の傷害をうけ、昭和四二年四月二一日、二二日の二日にわたり前記病院に通院し、同月三〇日後遺症を認めず治癒と診断されていることが認められる。

二被告真和タクシー株式会社が甲車を、被告志村興業株式会社が乙車をそれぞれ自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。従つて、被告らは各自次の損害を賠償すべき義務がある。

三(一)〈証拠〉によれば原告野沢は肋骨々折の後遺症として仮関節を思わせる症状があり、自覚症状として折れた背中をねじると痛いし、足も深く腰掛けていたあとなどときどき激痛が走り、肩こり等がある、物を抱えると痛むといつた状況があることが認められ、前認定の入、通院期間等一切の事情を考慮し原告野沢の受くべき慰藉料は三〇万円をもつて相当と認める(算定の内訳は入院期間につき一二万円、通院期間につき一ケ月二万円の割合で一三万円、後遺症につき五万円)。

(二)  〈証拠〉によれば原告中村は本件事故後約三日位続けて会社を休み、その後も休んだことがあり延一週間位休んだこと、赤羽中央病院に診断のため一回とその後も頭部レントゲンを取つてもらうために一回行つたこと、ときどき頭がぼーつとすることがあり、気力が少しなくなつたように感じていることが認められ、この前認定の傷害の程度等一切の事情を考慮し、同原告の受くべき慰藉料は二万円をもつて相当と認める。

(三)  〈証拠〉によれば、訴外富士油化工業株式会社(以下訴外会社という)は本件事故当時原告野沢を月給八六、八〇〇円で雇傭していたところ、原告野沢が本件事故により前認定のとおり昭和四二年四月五日より同年五月一一日まで入院し右会社を欠勤したが、この間の給料を全額支給し、右退院後は右訴外会社に出勤したが、同年一一月二七日までは、この間一七回にわたり通院し、症状も完治にいたつていなかつたので、執務力が事故前に比べ低下したが、訴外会社は給料を減額せずに支給し、賞与も支給したことが認められ、訴外会社はこのため損害を蒙つたことが認められる。尚支給した給料、賞与が即損害額とはいえず、入院のための欠勤中の給料の額および退院後は執務能力の低下に応じ分量に従い損害額が決められるべきである。しかして、右訴外会社の有する損害賠償債権額の認定は措き、訴外会社は損害賠償債権を昭和四四年二月三日原告野沢に譲渡する旨の通知を発し、同月五日右通知が被告らに到達したことは当事者間に争いがなく、被告らは右債権譲渡が信託法一一条により無効である旨抗争するので、先ずこの点につき判断する。証人小島喜太郎の証言、原告野沢本人尋問の結果によれば、原告野沢から訴外会社に損害賠償債権を譲渡してほしい旨の申出があり、訴外会社は、譲渡の対価をとることもなく、本件訴訟で被告らから賠償を取つたときは返してもらうという趣旨の了解のもとに、訴訟をして取つてもらうため、当初は原告らの慰藉料のみを請求していた本件訴訟中である昭和四四年二月三日に原告野沢に債権譲渡をなしたことが認められ、右譲受けた債権を同月七日付の原告野沢訴訟代理人提出の請求金額拡張の申立書により本訴に追加請求するに及んだことは記録上明らかである。右事実によれば右債権譲渡は原告野沢に被告らに対し訴訟をさけることを主たる目的としてなされた信託行為と認められ、従つて右債権譲渡は信託法一一条によりその効力を生じないものといわねばならない。よつて、被告らの抗弁は理由があり原告野沢のこの請求はその余の判断をなすまでもなく失当である。

(四)  原告野沢は本訴提起を本件訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであり、このための弁護士費用のうち被告らに賠償させるのは三〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。

四よつて、被告らに対する本訴請求のうち、原告野沢に対し三三〇、〇〇〇円および内金三〇〇、〇〇〇円に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年五月一一日から、残金三〇、〇〇〇円に対する昭和四四年二月九日から、各支払済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める部分は正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九一条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し主文のとおり判決する。(荒井真治)

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